(2) 破竹の勢いで欧州大陸を制したナポレオンだが、英国との戦争には勝てなかった。背景として指摘されるのは、国債による戦費調達力の差だ。 英国は信用が高く、多くの資金を集められた。一方、フランスは王政時代からデフォルト(債務不履行)を繰り返したため、軍事にたけたナポレオンも国債は発行できなかった。 今も防衛費増額には国債が付きものなのだろうか。ウクライナ危機を受け、防衛省の来年度予算の概算要求は過去最大となった。自民党は今後5年で10兆円規模に倍増させたい考えだ。多額の財源が必要となるが、国債で賄えばいいとの声が強い。 安全保障環境の変化に対応することは重要だ。だが第二次世界大戦の教訓を忘れてはならない。軍事費捻出のため、国民に大量の戦時国債を買わせたが、敗戦で紙くず同然となった。戦後、赤字国債を法律で禁じたのは、財政と国民生活を破綻させた反省からだ。 しかし「例外」だったはずの国債発行は常態化し、残高は1000兆円を超えている。国内総生産(GDP)の2倍以上と大戦時並みの危機的な水準にある。借金頼みの無責任な政策を続けていては将来世代の負担が膨らむばかりだ。 ナポレオン戦争の時代、ドイツの哲学者カントは戦火の絶えぬ欧州を憂えた。後に国連の理念にもなった著書「永遠平和のために」で戦時国債の禁止を唱えた。「発行し続けた国家が破産するのは避けられない」との警句は現代に通じる。今の日本が耳を傾けぬ道理はあるまい。